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ITケーススタディ

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会社を元気にするIT活用



本日は、小金井市にあります、株式会社 武蔵野 を訪問して、サイボウズなどのソフトウェアを使用して、効果的に事業にITを取り入れている、同社の小山 昇 社長にお話を伺い ました。武蔵野は、2000年度日本経営品質賞も受賞しており、非常にユニークな経営で注目されています。
(今回はインタビュー形式でお聞きしました)

●会社を元気にするためにITを使う
--- 小山社長は、企業経営にITを積極的に導入されて、非常に効果的に活用されていると伺っております。本日は、その事を中心に社長のお話を、お聞きしたいと思います。
まず、社長のITに対する考え方をお聞かせ願えますか?


ITの使い方の基本的な考え方は、「会社が元気になる」「働いている人が元気になる」これが大方針です。


--- それは具体的にどういうことですか? 経営者の中には、ITを取り入れると社員がみんなパソコンに向かいっぱなしになってしまって、会話がなくなってしまい会社が暗くなると考えている方もいらっしゃるようですが・・・。

そうですね。当社の社員はEメールもボイスメールもグループメールも全部使えます。普通の会社は管理職が部下に対して、文句は言うけれどあまりほめることをしませんね。今当社が一番取り組んでいることは、管理職に月に20回、または20人の部下の良い所をほめろ、ということなのです。ほめろと言っても、ほめたかどうかわからないわけですから、きちんと証拠を残しているのです。 来る時貼ってありましたでしょう?あの紙は「サンクスカード」というものですが(写真参照)、このサンクスカードを渡すのです。要するにメールではなくて「ありがとう」と真心を込めて、直接本人に渡すのです。

「サンクスカード」表(左) と 裏面(右)


階段踊り場にびっしりと貼り付けられた、
サンクスカード


 ところが社長の私は、年に120回も講演をやっているものですから、そのままでは、会社のことがわからないです。そこで、私は基本的に、部下からの報告をメールでもらわずに、FAXでもらうようにしています。これは(と、赤ペンでビッシリと手書きのメモが入ったFAXのプリントアウトを見せながら)サイボウズで作成された日報ですが、サイボウズ上から自動的にFAXできるような仕組みになっています。普通はFAXするためには、プリントアウトしてFAXしますね。それは面倒なので、当社はこの仕組みにしました。サイボウズ上から自動的にFAXできるワークステーションには、FAXというラベルがはってあります。このワークステーションはインターネットのどのホームページもFAXできます。

--- それは社長が、紙で見ることに意味があると考えていらっしゃるということですか?

そうです。なぜかといいますと、Eメールで返信すると「ありがとう」という言葉がいつも同じ言葉ですね。人間、楽をしようとしますから。そうすると、受け取る側は「読んでいないじゃないか?」と思ってしまいますね。日報を出しても上が読んでくれないと思うとやる気がなくなりますね。人間は誰かが評価してくれないとだめなのです。ですからこれを社員がやるために、サイボウズと連携したPDAを持ってやっています。それを見て、私は手書きで書く、ここをアナログでやっているわけです。 このように役員ごとに私が指示するのですが、それを見れば、社長が直接どんな指示をしているかがわかるような仕組みにしてあります。それを共有しているのと、Eメールで同じものをもらうより、このように手書きのほうが、元気が出るんですよ。たとえば「誕生日おめでとう」と、Eメールでもボイスメールでもできます。でもあえてやりません。Eメールやボイスメールでは本人にしか伝わらないですね。でも葉書を書いて送ると、誰が最初に見るかというと、家族ですね。このことができるのはなぜかというと、PDAだからです。

-- PDAなどのデジタル機器で情報を集めてアウトプットはアナログ、ということですね。

 そうです。この葉書(と、社員の家族へあてた葉書を見せながら)もPDAで直接住所も打ち出せるのですが、わたしはあえて手書きをしています。アナログじゃないと心が通じないのです。デジタル化すると確実に効率はよくなります。しかし効率がよくなるイコール業績がよくなるかというと必ずしもそうではありません。

ではIT化しなければいいかというと、それでは会社がつぶれます。いつの時代もそうですね。テクノロジーを制した者だけが、次の時代に生きる権利をお客様から与えられているわけです。私はそのように思っていますから、必ずやらなくてはいけません。

例えば、一番わかりやすいのは、我々4人が仕事を終えて、これから飲みに行くとします。そこで女の子が2人しかいなければ、お店としては効率がいいですね。でもお客さんの満足度は低いです。今度は女の子が4人いるところへ行くと、我々の満足度は高いですが、お店の効率は悪いですね。全部を効率悪くしていたらお店はつぶれます。そこでどうするかというと、そこへ戦略をもってくるのです。ITもそうですね。パレートの法則をご存知のように、20%のお客さんで80%の売り上げると同じように、Sランクで上位5%のお客様で、売り上げが普通35%くらいあります。まあ業界によっても違いますが、この上位5%のお客さんが一番もうかるのです。ここだけにアナログ作戦を使います。超面倒くさいことをします。それ以下は普通の会社と同じにやっていれば、Sランクのお客様が逃げなければその次の人たちも逃げないです。ライバル会社はそういうことをやりませんから、どんどんお客様が来ますね。

--- お客様との連絡をITでするということはありますか?

お客様との連絡をITですることはありますが、そのきっかけとなるところ、ここ一番を担うのは、アナログなんです。徹底してアナログなんです。

--- なるほど。では一番最初におっしゃった、ITは会社を明るくするために使うということですが、ITは効率を良くするために入れる、コストが下がる、業績が良くなると、それだけでは会社は明るくならないわけですね。その分、余った時間やエネルギーをアナログの部分につぎ込むからこそ、会社が明るくなる、ということですね。

 そうです。お客様もそうですよね。例えば、当社は8万5千軒のお客様がいらっしゃるんです。昨年までは私は、1ヶ月間かけて盆暮れにお中元やお歳暮を手に持ってお届けしていました。宅急便で物が送れることは私だって知っています。でも、送らないのです。なぜかというと、物は送れても感謝の気持ちは送れませんね。私は18年間このようにやっています。 そうしていると、お客様の所に「うちは5割引でやっています」とライバル会社が来たとします。すぐ「やめたい」と連絡が来ます。飛んでいくと「あぁ、あんたか。5割引という話が来てるぞ。」とおっしゃるわけです。「ではどのようにしたらよろしいでしょうか?」というと「俺の顔が立つようにしてくれ」というわけです。「どのように?」というと「15%くらい引いてくれればいいよ」と、15%で済んでしまうわけです。それは、日頃手間をかけてお客様とお付き合いしているからです。私共は、お客様に見えないところは徹底してデジタルを活用して、お客様と接するところ、社員を育てるところは徹底してアナログです。

●人の心はデジタルでは伝わらない

 普通の会社のITの取り組み方は、お客様の入り口も出口も中も全てをIT化しようとしているわけです。私は、それは間違いだと思っています。なぜかというと、物事の意思決定をするのは全て人です。人の心はデジタルでは伝わらない、心は人が伝えるんです。アナログなんです。

---実際に会わないと、ということですか?


そうです。一番わかりやすいのは「COMDEX」(注:アメリカのラスベガスで開かれるコンピュータの展示会)がありますね。なんで「COMDEX」にあんなに人が集まるのですか?要するに、世界最先端のITを売るためにでさえ、展示会に行って人と会話しながら商品を見るというようなアナログの力がないと売れないということなんです。

--- 本当ならばインターネットで見本市をやればいいところをみんな集まってくるということですね。

 バーチャルモールで物を買わないと考えている人も少なくないですね?なぜなら買い物は見比べて、触って買いたいという人間の持っている属性があるからです。在庫管理だとか、そういうことはITでやったほうがいいですね。なんでもかんでもITで解決しようとする考え方が間違いなんですよ。食事に行って、そばとうなぎとラーメンとピザと寿司があったら、その店は確実にまずいですよね。寿司は寿司だけ、うなぎはうなぎだけの方がおいしいんですよ。それと同じようにITもそうですよ、ということなんです。

--- なんでもITでやるとダメということですね。

 それから、Eメールもボイスメールも画像も、というようにプラットフォームを1つでやりたがりますよね。それも間違いです。私のところは、サーバーをわけています。なぜかというと危機管理なんです。ひとつでやるということは、それがダウンした時に身動きがとれなくなってしまいます。ボイスメールを呼び出す時には、メールが入ったかどうか携帯電話にEメールが来ます。これの方が1回1円で安いからですが、サーバーがダウンした時には連絡ができなくなってしまいます。ところが、ダウンした時には電話呼び出しに変えます。これは1コール20円かかります。このように、常に危機を考えて2つの方法を、メールもいろんなメールの見方というものをいつも考えているのです。

--- どこかにウィルスが来て、サーバーがひとつダメになったとしても他のものはつながるということですね。

●IT導入の秘訣は「上から」と「お金に関することから」

--- ところで、社内は徹底してデジタル化しているということですが、特に中小企業だと人的資源もなかなかありませんし、新入社員また管理職へのIT教育など、ITを社内で普及させるためにはいろいろとご苦労があるかと思うのですが、そこのところはどうされていますか?

 まずひとつは上からやります。要するに階段を掃除するのに、下から掃除しても効果は出ません。上からやらなくてはいけませんね。同じように、会社をIT化するためには、上の役員から最初に教えるんです。ここは時間をかけてもいいんです。時間をかけないとできないですね。例えば、携帯電話会社の経営者の人たちは、ケイタイ電話でEメールを送れません。送れない経営者がまともなんです。だってそういう時代に生きてきたんですから。そういう人に時間をかけるんです。その次は部長、下のほうは目をつぶったってできますから(笑)。うちの小学生の娘なんか、そういうものを持たせるとマニュアルも見ないで時間設定できちゃうんですからね。そういう人たちと我々では一緒にはできないということ、上からやっていくということですね。

もうひとつは、当社がなぜいろいろなことができるかというと、お金に関することしかやらないということなんです。例えば、グループウェアを導入したらいろんな機能がありますよね。でも全部やらせないんです。例えば旅費の仮払いや清算などお金に関するところだけしかやらせないんです。そうすると、みんなできないと困りますよね?

--- やらなければならないというわけですね。

それでもやらない者がいるんですよ、絶対に。どうするかというと、ハガキですね。本人宛にハガキを書くんです。「出張清算が25万円たまっているけどどうするか?」と、それを奥さんが見ますね。そうすると「あんたお金があるのに」と言いますね。子供の学校などにお金がいるとなると、絶対にやりますね。要するにここはアナログのほうがいいんですね。

Eメールをなぜみんなが使えるようになったかというと、給料明細を全部メールで送るようにしたからです。まず総務が給料袋に入れる手間が省け、入れ間違いもなくなります。でも給料明細を奥さんに持っていかなければいけませんから、給料明細をプリントアウトすることを覚えるわけです。プリントすることやEメールを見ることと、Eメールを書くことではどちらがエネルギーを使うかといえば、これは言わなくてもわかりますね。ですからいつもやさしい事をやらせているんです。プリントできて、奥さんに持っていけるようになりますよね。そうしたら名刺を全部捨てさせて、今度はメールアドレスが入った名刺を営業で使わせます。そうするとお客様からメールが来ますよね。お客様にしかられた時には社員は動くんですよね。上司にしかられてもそんなのなんとも思ってない、そうですよね?

--- まあ反発することもありますね(笑)。

 そうですね。そういう時もありますね。でも大抵は下を向いていればそのうちに終わっちゃいますよね。ですからお客様にしかられると仕方なくやる、ということです。人間生まれて最初に覚える機能は「聞く」ということです。次は「話す」ですね。次は「読む」、「書く」ですね。日本のITが進まないのは、一番難しい「書く」ということを最初に教えるからなんです。 ところがアメリカでは、人間の機能として一番簡単な「聞く」ということからやったから、ボイスメールが発達しました。当社もこうしてIT化できたのは運良くボイスメールが一番早かったからです。ボイスメールを聞くことや話すことから徹底して、グループの横の連絡ができるということが理解できたからEメールも早かったです。今はどうなっているかというと、給料明細が来ると奥さんにEメールで転送しています。 それから昔、画像合成をやったことがあるんですね。デジタルカメラの画像とスキャナーの画像を合成して作るのですが、その時は当社でもビデオの録画もできないような人を先生にしちゃったんですよ。3週間かかりました。彼女が先生になると、生徒は1時間授業3回で全員画像合成ができるようになっちゃうんですよ。なぜかというと、ビデオも操作できない人に、新卒が「あんた若いのに覚えが悪いね」なんて言われると頑張りますよ。ようするに、なぜ普通の会社がITができないかというと、会社の中でITをやる人は頭のいい人、理解がすぐできる人がやるからです。それを先生にしちゃだめなんですよ。

--- そうすると「なんでおまえこんなのができないんだよ」となってしまいますからね。

 そうです。教わっている側も反発します。でも会社の中で一番スキルの低い人に「部長、案外だめですね」なんて言われたらムッときませんか?だからいいんですよ。ですから人間の心理を無視して導入するとだめなんです。当社はITツールを使える最高年齢は84歳です。80歳以上の人が3名いるんです。彼女は、Eメールは打てませんが、携帯のメールを読むことはできます。読んで削除することとボイスメールを聞くことだけを教えたんです。仕事が終わったらボイスメールで、仕事が終わったことをコールセンターに戻すと、コールセンターのオペレーターがそれを聞いて、情報を入力してあげると情報の共有ができますね。

●IT利用の選択肢を用意する 【導入の責任者は私です】

--- 先ほどプラットフォームがいろんなものがあったほうがいいとおっしゃっていましたが、それはユーザーにとっても複数あった方が便利だということですね。若い人はEメール、お年寄りの方はボイスメールで仕事ができるということで、複数のシステムがあることでそれぞれが自分に都合のいいものを選べば、情報の共有ができるということですね。

では、御社のIT化を進めるための特別な組織といいますか、普通の会社ですと情報システム部門とか固定された組織がありますが、御社ではどのようにされていますか。


 例えばサイボウズを入れる時、あるいは携帯電話のボイスメールを入れる時など、システムを立ち上げることについては専門の担当者がやります。しかし、導入の責任者は私です。要するに力仕事ですからね。これは社員の名簿ですが、グループウェアの活用ができているかどうか、PDAが使えるかどうかなど一人一人チェックしています。そしてできない者を、情報公開することが大事です。また、グループウェアにスケジュールを入れろと言っても、面倒くさいからといってやらないですね。当社では、やらない人は賞与が下がる仕組みになっています。要するに、当社の場合は全てお金に直結しています。

--- わかりやすいですね。

そうです。「やらなくてもいいよ。その代わり賞与を半分にするから」。単純でしょ(笑)。普通の会社でなぜIT化できないかといえば、社員がやりたくないからです。これが一つ。それから、経営者が社員に根負けするからです。私がこうして最後の1人ができるまでチェックできるのは、チェックリストがあるからです。できない人は役員だろうがなんだろうがすぐ公表します。そうしたらできない人は会社を辞めるか?。辞めてくれたほうがいいじゃないですか。こちらからはクビにはできないですから。今時辞めませんよ。当社は増収増益できていますから。管理職になればなるほどやめません。

●導入にはトップが率先して
---そうするとやらざるを得ないですね。

そうです。だから、良いことはトップが、強制しなければいけません。


--- そこで躊躇してしまったらトップではないということですね。根負けせずに、やった分はちゃんとほめるということですね。考えてみれば単純なことですね。

そうです。社内でどれくらいみんながほめあっているか、素直に喜び合っているか、ということも、(社員別に「サンクスカード」を出した数と受け取った数を示す表を見せながら)このように公表しています。ほめる仕組みを作った時は、最初は全然みんなほめませんでした。それは、最初は「ありがとう」というカードをあげるのは、あげる人の基準で80点以上でないとあげないという基準にしたからです。それを20枚以上とか10枚以上あげなさい、と量に変換しました。そうしたら会社が変わりはじめました。なんでもそうです。ボイスメールと売り上げとの相関を見てみると、コミュニケーションの量が増えると業績も上がる、逆にコミュニケーションが減ると業績も下がる、赤字になる、ということもわかっています。

●社内のコミュニケーションは業績に直結す
--- 社内のコミュニケーションが良くなると業績が上がるのですか。

 大企業は社会環境に影響されます。でも中小企業は世の中のせいではなくて、社内のコミュニケーションが良くなれば業績が上がって、悪くなれば下がる、ただそれだけです。ところが普通の会社は、社内のコミュニケーションを計る仕組みがありません。なぜかというと、普通の会社は、基本的な情報の流れは全てアナログです。だからカウントできません。当社は情報系のバックヤードはデジタルになっていますからカウントできます。そういう仕組みになっています。
また、スピードが違いますね。私の名刺に書いてある番号に携帯で電話していただくと、80秒以内に私がコールバックします。それは、入ってきた音声をボイスメールにして、メールを受信したことを携帯電話のEメールに送信して、呼び出しコールをしているからです。これと同じように、留守番電話もボイスメールにして転送し、すぐフィールドの人たちに伝えるという仕組みもあります。
●「良いこと」と「成果が出る」の違い

 また、システム開発の基本的な考え方としては、「良いことはさせない」ということです。
これは、「成果の出ないことはやってはいけない」ということです。成果が出るということは、お客様の満足が上がる、従業員の満足が上がる、コストが下がるということで、この3つのうちどれかが明確にならない限り、システム化してはならないということです。ところがほとんどの会社は、システムの方が「こうすればいいですよ」と言えば、ITのことがわからないトップが「いいじゃないか」と言いますね。良いことと成果の出ることとは違います。システムがわかっている人が「これは良いからやるべきだ」と言っても、実際の成果が出ないようなものは当社では導入しません。
それから当社のシステムをやっているのは全部、うちの仕事がわかっている人たちに、コンピュータを教えました。ところがほとんどの会社は、コンピュータが強い人にシステムを書かせています。仕事がわかっていません。だから非常に複雑なものになってしまいます。当社の場合は、仕事がわかっているから私の言っていることがわかります。
それからシステムについてはできるだけシンプルに作るように言っています。外注するときも普通の会社の社長はどこを見ているかというと、値段を見ています。それは間違いです。どう見るのが正しいかというと、毎日、全社員で使うものは、値段がどんなに高くても一番安いです。ソフトの金額を頻度で計算することが正しいです。経理の減価償却費なんていうシステムは作っちゃいけません。1年に1回しか使いませんから。ですから会社の中の業務全てをIT化しようとするとコストがかかります。特に中小企業の場合は、たとえば、今車を乗っている方がいましたら、その車を新車に変えてはいけません。なぜ新車に変えてはいけないかというと、全てを覚えなおさなければいけないからです。ですから今乗っている車のシートを取り替える、タイヤを替える、エンジンを替える、最後にボディを替えると新車になるというように、やさしいところから、コストがかからないところからやり始めていくということが大切です。みなさん順番が間違っているのですね。

---みなさんベンダー側から「このシステムいいですよ」と言われて、それをそのまま社内の情報システム部門の人間が社長に持っていくということですね。

 そうです。それが一番の間違いですね。

---使ったらこんなはずじゃなかった、なんて(笑)。

 そうですね。大体、多くの会社では、社内で一番いいコンピュータを使っているのが社長ですよ。当社は一番スピードが遅いコンピュータを使っているのが私です。仕事するのは現場ですから、速いコンピュータじゃなければだめです。社長なんてたまにしか会社に来ないですからこれでいいです。もし忙しければ空いているところを使えばいいですから。
●ITを導入して時間を作る
---お話を聞いていると、社長ご自身の仕事がすごく忙しくなるのではないかと思うのですが、いかがですか?

 ですからこま切れ時間に仕事をしているんです。こま切れ時間を活用するためにはどうしてもIT化しないとできないんですよね。私への連絡はEメールで来ますからそれは電車の中で処理するとか。今日もこれから大阪に出張へ行くのですが、新幹線に乗るときにEメールをとるんですよ。新横浜まで18分ですから新横浜までメールを見て急ぎのものだけメールを作って新横浜でメールを送ります。歩いているときはボイスメールを聞いています。このようにこま切れ時間を使っています。今日も会社に来たのは久しぶりです。

---逆にいうと会社へこなくてもITがあれば仕事ができるということですね。

 そうです。私がこのように仕事をしていて一番時間を使っていることは、幹部社員と3週間に最低2回はみんなで酒を飲むことです。会社に来ても現場、お客様訪問、営業所を見て回るということです。この移動の間に仕事をします。
●ITを導入することにより得た時間を使う 【現場に行くためにITを使う】
---そういう時間を作るためにITを活用されているということですね。

 そうです。なぜかというと、社長室には、わが社が良くなるための情報は何もないのです。わが社が良くなるための情報は全部現場にしかありません。現場に行ってどういうことをしているかというと、社員の報告を聞いてはいけません。いいことしか言わないに決まっていますから。何で聞くかといえば、口で聞きます。耳で聞いちゃいけません。見るのは何で見るかと言えば、手で見なきゃいけません。こうやって置いてありますね?(机に紙をかぶせる)目で見ただけじゃわからないから自分でこうやって(と紙を裏返して)手で見ないと本当のことはわかりません。それも現場に行かないとできません。現場にしか真実は無いのです。

---ITでは現場の状況をそのまま伝えることはできないけれども、ITを使うからこそ現場に行く時間ができるということですね。

そうです。そして、現場で見たことをいろんな人たちに連絡するのは、Eメールやボイスメールやグループウェアを使う、ここはITじゃないとだめです。

---勘違いしている人が多いのは、ITを使うといろんな情報がわかるからもう現場に行かなくてもいいと思ってしまうからなのでしょうね。

 そうです。それが間違いですね。現場に行くためにITを使うことが大事です。

---ITを使えば、今まで1つしか行けなかった現場に2つ行けるようになる、というように、ITを使う目的がITそのものじゃなくて現場ということですね。

 なんでそんなに一生懸命仕事をしているのかとよく聞かれますが、夜酒飲んで遊んでいたいからです。だから私は昼間のこま切れ時間をフルに活用しています。夜は飲んだくれていたいのです。そのために私は一生懸命仕事をしています。
●IT導入のアドバイス
---パソコンを入れると社員がゲームで遊ぶのではないかとか心配されている社長さんもいらっしゃるようですが、御社の場合はいかがですか?

 私なんかインターネットが流行った時に、全社員に社長命令でアダルトサイトを見させました(笑)。見たいものは見ればいいじゃないですか。そんなことをしているほど暇な会社じゃありません。社員がゲームをするのが心配だなんて言っているのは暇な会社です。当社は基本的にサイボウズでもPDAでも、まず、最初に教えることは「私用で使え」ということです。私用で使えないものは仕事で使えないということですから、これが私の基本方針です。

---Eメールを導入したら、社員がデートの約束ばかりしてる、という話もよく聞きますが。


 それが正しいのではないですか? どんどんやらせればスキルが上がるじゃないですか。それに、毎日朝から晩までデートの約束ばかりしているほどモテやしませんよ。

---社内での情報共有については、どのような工夫をされていますか。
実はIT化していてもしていなくても、情報共有の程度はあまり変わりませんね。例えば20人で会議をするとします。20人分の資料を作ります。みんなもらっていってどうするかといえば、机に鍵をかけてしまっています。なぜかというと、安心しているんですね、その20人が。IT化すると、20人にEメールで送ります。今度はどうするかというと、みんな自分のパソコンの中に持っているのですよね。同じことじゃないですか

ところが当社では仕組みを変えて、持っていなくてもいい仕組みになっているんです。これは途中で気がついたのですが、1人1台のパソコンにすると全部自分のパソコンにデータを溜め込んでナレッジを共有できません。そこで当社はどうしたかというと、個人用のデータはサーバーに入れて、パソコンを2人に1台にしました。そうするとみんなサーバーに書きにいきますね。そうすると、サーバーにデータがあるから自分のパソコンに入れるよりもそっちのほうがいいということになります。これができるようになってから、また1人1台にしたのです。また、サーバーのファイルは「全文検索」という機能を使って、キーワードを入れれば検索結果が出てくるようにしています。

---今日は非常に興味深いお話をありがとうございました。


本日は、小金井市にあります、株式会社 武蔵野 を訪問して、サイボウズなどのソフトウェアを使用して、効果的に事業にITを取り入れている、同社の小山 昇 社長にお話を伺いました。武蔵野は、2000年度日本経営品質賞も受賞しており、非常にユニークな経営で注目されています。
(今回はインタビュー形式でお聞きしました)


■株式会社武蔵野
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